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「後継者がいない」という理由で廃業を検討している企業の数は、年々増加傾向にあります。後継者不足の主な理由は、事業者の高齢化や少子化です。このページにたどり着いたあなたも、事業承継の悩みがあるのではないでしょうか。
ですが、そんなあなたに朗報です! 今、「惜しまれる廃業」を防ぐ有効な手段として注目を浴びているのが、事業承継補助金です。
さて今回は、社長交代を契機に新たな取り組みを考えているあなたを応援する事業承継補助金について、お伝えしたいと思います。
- 経営革新・事業転換を目論んでいる人
- 2017年4月1日以降に社長を交代した人
- 2020年12月31日までに社長を交代する予定の人
事業承継補助金の目的
2018年版の「全国社長年齢分析(帝国データバンク)」によると、経営者の平均年齢は59.5歳で、1990年以降上昇しつづけています。また、少子化や職業選択の自由などで。身内への事業承継もドンドン難しくなっており、事業承継の問題に拍車をかけています。そのため、清算や廃業を選択せざるを得ない企業が後を絶たないという状況になっています。
この状況を放置したままだと、国家全体の経済に甚大な影響を及ぼしかねません。見かねた国は、ようやく重い腰をあげて動き出しました。それが、事業承継補助金です。この事業承継補助金を一言でいうと、「社長が交代したときに新たな投資をするなら、その経費を補助しますよ」というものです。
2017年に開設された当初は、使い勝手の悪い制度でしたが、2018年には、昨今のM&A需要の高まりを受け、親族間承継だけでなく、新たに第三者承継(M&A)の場合でも活用できるようになりました。いわゆるⅡ型(事業再編・事業統合支援型)です。
事業承継補助金の補助対象者
事業承継補助金は、事業承継やM&Aなどする中小企業の新しいチャレンジを応援する制度です。新たな投資をするリスクを背負ってでも、積極的に事業を存続させるための制度なので、該当する中小企業は積極的に活用していきたいですよね。
事業承継補助金の補助対象者は、以下の7つの要件を満たす中小企業者等である必要があります。
- 日本国内で事業を営む者
- 地域経済に貢献している等
- 反社会的勢力でないこと、関係も有していない者
- 法令順守上の問題を抱えていない者
- 経済産業省から補助金指定停止措置が講じられていない者
- 公表される場合があることに同意する者
- 補助事業の調査やアンケート等に協力できること
ちなみに、中小企業者等の定義については、「中小企業基本法第2条」に以下のように規定されています。
業種分類 | 資本金の額又は出資の総額 | 常勤従業員数 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
続けて、対象となる二つの類型の補助率と補助金額ついて、具体的に見ていきましょう。
Ⅰ型:後継者承継支援型の補助率・補助金額
対象 | 補助率 | 補助金額 | 廃業に伴う上乗せ額 |
小規模事業者 | 2/3 | 上限200万円 | +300万円(上限額500万円) |
小規模事業者以外 | 1/2 | 上限150万円 | +225万円(上限額375万円) |
Ⅰ型の「後継者承継支援型」は、経営者の交代に伴うものです。補助金には上限額は、小規模事業者は上限額の200万円で補助率2/3です。小規模事業者以外は、上限額が150万円で補助率は1/2です。
Ⅱ型:事業再編・事業統合支援型の補助率・補助金額
対象 | 補助率 | 補助金額 | 廃業に伴う上乗せ額 |
審査結果上位 | 2/3 | 上限600万円 | +600万円(上限額1,200万円) |
審査結果上位以外 | 1/2 | 上限450万円 | +450万円(上限額900万円) |
Ⅱ型の「事業再編・事業統合支援型」は、M&Aに伴うものです。Ⅰ型と大きく違うのは、審査があるところです。審査結果によって、上位とそれ以外に振り分けられ、上限額に違いが生じます。上位は上限額600万円で補助率2/3、上位以外は上限額450万円で補助率1/2となります。
今回、新たに補正された事業承継補助金は、必ずしも親族間承継である必要がないため、使い勝手は格段と良くなりそうです。
事業承継補助金に該当する補助対象経費
ここまでくると、事業承継補助金の対象となる「経営革新・事業転換」が、どんなものか気になるところですよね。
具体的にあげると、新たな設備投資や出店など、事業の活性化につながるものです。なので、売上原価やM&Aのコンサルティングフィーなどは、補助対象とはなりません。
事業承継補助金の補助対象経費は、以下のとおりです。
❶ 事業費
費目名 | 概要 |
---|---|
人件費 | 本補助事業に直接従事する従業員に対する賃金及び法定福利費 |
店舗等借入費 | 国内の店舗・事務所・駐車場の賃借料・共益費・仲介手数料 |
設備費 | 国内の店舗・事務所の工事、国内で使用する機械器具等調達費用 |
原材料費 | 試供品・サンプル品の製作に係る経費(原材料費) |
知的財産権等関連経費 | 本補助事業実施における特許権等取得に要する弁理士費用 |
謝金 | 本補助事業実施のために謝金として依頼した専門家等に支払う経費 |
旅費 | 販路開拓等を目的とした国内外出張に係る交通費、宿泊費 |
マーケティング 調査費 |
自社で行うマーケティング調査に係る費用 |
広報費 | 自社で行う広報に係る費用 |
会場借料費 | 販路開拓や広報活動に係る説明会等での一時的な会場借料費 |
外注費 | 業務の一部を第三者に外注(請負)するために支払われる経費 |
委託費 | 業務の一部を第三者に委託(委任)するために支払われる経費 |
費目名 | 概要 |
---|---|
廃業登記費 | 廃業に関する登記申請手続きに伴う司法書士等に支払う作成経費 |
在庫処分費 | 既存の事業商品在庫を専門業者に依頼して処分した際の経費 |
解体・処分費 | 既存事業の廃止に伴う建物・設備等の解体・処分費 |
原状回復費 | 借りていた設備等を返却する際に義務となっていた原状回復費用 |
移転・移設費用(Ⅱ型のみ計上可) | 効率化のため設備等を移転・移設するために支払われる経費 |
新たなチャレンジに直接携わる従業員の給与や、賃料なども補助対象経費となるので、事業承継補助金は使い勝手の良い補助金です。
事業承継補助金の申請の流れと必要資料
事業承継補助金の申請は、以下の流れで進んでいきます。
- 応募準備
- 交付申請
- 採択後
この3つのフェーズでそれぞれ書類が必要となってきます。順にみていきましょう!
❶ 事業承継補助金の応募段階で必要な書類
補助金申請に応募する前には、様々な必要な書類を揃えることになります。事業計画を作成する際には、具体的な表現を心がけ、事業承継補助金をどのような活かすのか、アピールすることが重要です。場合によっては、専門家に相談するのも良いかもしれません。
応募段階で必要となる書類は、以下のとおりです。事業主体によって異なります。
- 履歴事項全部証明書(発行から3ヶ月以内)
- 直近事業年度の決算書(貸借対照表・損益計算書)
- 事業承継後の場合、役員変更の官報公告もしくは役員等の専任決議の議事録
- 税務署の受領印が押印された確定申告書B
- 所得税青色申告決算書の写し
- 直近事業年度の確定申告書
- 直近事業年度の決算書(貸借対照表
- 損益計算書)・履歴事項全部証明書(発行から3ヶ月以内)
- 定款
❷ 事業承継補助金の交付申請段階で必要な書類
申請要件を満たす書類がそろったら、交付申請手続きに入ります。
交付申請段階で必要な資料は、以下のとおりです。
- 住民票(交付申請日以前3ケ月以内)
- 認定経営革新等支援機関による確認書
- 申請資格を有していることを証明する後継者(承継者)の書類
- 経営計画書の認定書
- 事業再編・事業統合に関する書類(Ⅱ型の場合)
- 公募要領の加点事由に該当する書類
- 補足説明資料(必要に応じて添付可能)
交付申請段階では、事業承継に伴う役員変更登記が完了していなくても大丈夫です。無事に交付申請を提出したら、審査が終わるまで落ち着いて待ちましょう。
❸ 事業承継補助金の採択後に必要な書類
採択後、必要書類を提出から約2~3ヶ月後くらいに、事業承継補助金事務局より補助金が交付されます。
- 補助金交付申請書
- 申請事業の経費明細
- 事業計画書
- 交付申請書類のチェックシート
以上で、事業承継補助金の申請手続きは終了となります。なお、補助金交付後5年間は、事業化の状況報告を行うが義務があるので、最後まで注意が必要ですね。
事業承継補助金を活用しよう!
今回の事業承継補助金の対象は、事業承継やM&Aで2017年4月以降に経営者が代わった場合、もしくは2020年中に経営者が代わる場合が対象です。
経営者が交代することが前提のため、補助金の対象者は多くはありません。ということは、競合も少ないということになります。実際に採択率は以下のとおりです。
事業承継の類型 | 募集期間 | 申請数 | 採択数 | 採択率 |
Ⅰ型「後継者承継支援型」 | 1次募集 | 481 | 374 | 77.8% |
2次募集 | 273 | 224 | 82.1% | |
3次募集 | 75 | 55 | 73.3% | |
Ⅱ型「事業再編・事業統合支援型」 | 1次募集 | 220 | 119 | 54.1% |
2次募集 | 43 | 25 | 58.1% |
非常に、採択される可能性が高い補助金であると言えます。経費が限定されている補助金が多い中、事業承継補助金は経営革新に取り組む「新しい取組」という、非常に広い範囲で活用できる稀有な補助金です。
- 使い勝手が良い
- 補助金額が高い
- 採択率が高い
このように三拍子そろった補助金はなかなかありません。事業承継補助金の対象に当てはまる方であれば、ぜひともトライしてみてください!!
逆に、近々承継を検討している会社であれば、事業承継補助金を上手に活用して、世代交代を進めるというのも、一つの手段として検討する価値があると思います。
※ 事業承継補助金の交付受付期間は、2020年5月29日(新型コロナウィルス感染症の影響で2020年6月5日に延長)に終了しております。二次募集につきましては、今のところ未定です。(事業承継補助金事務局)
- 2017年4月1日から2020年12月31日までに社長を交代しろ!
- 二代目は革新的な事業を考えろ!
- 後継者がいなかったら、専門家に相談しろ!