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「○○ホールディングス」や「△△グループ」という会社名を、新聞などでお目にしたことのある方も多いと思います。これらの会社のことを、”持ち株会社”と言います。
持ち株会社は、収益事業はほぼ何も行わず、会社の収益は全て子会社が上げています。一見すると、実体のないペーパーカンパニーのようにも見えます。では、なぜ、企業は持ち株会社という仕組みを取り入れる会社が増えているのでしょうか。
- 事業の多角化を考えている人
- 節税・相続対策に興味がある人
- 純資産が20億円を超える会社を保有している人
事業承継対策としての持ち株会社の活用
オーナーの親族が自社株を買い取るには、ご子息は買取資金をあらかじめ準備しておく必要があります。業績が好調で、翌期以降も黒字が継続すると見込まれる場合、自社株の評価が高くなるため、ご子息が払う相続税も多額となってしまいます。この問題を解決する方法として、持ち株会社を活用することがあります。
金融機関がよく提案する手法なので、あなたもどこかで耳にしたことがあるかもしれません。実は、この持ち株会社を活用すると、自社株の評価額を引き下げられる場合があります。この手法は、一般的に、純資産が20億円以上の会社に向いていると言われています。
持ち株会社による株価引き下げ効果
事業会社を間接保有にすると、直接保有にする場合と比較して相続税評価額を引き下げることができます。持ち株会社を設立し、株価の計算方法に違いを活用するのです。
相続税の心配がなくなれば、ご子息は会社の業績アップに邁進することができます。これって、結構大きなことだと思います。ブレーキをかけたまま、エンジンを蒸かしても前に進みません。持ち株会社を設立することで、企業の成長と株価の上昇を切り離して考えることができるのです。
そんなメリットを利用するためにも、非上場会社であれば、持ち株会社の設立を視野に入れてみてはどうでしょうか。
持ち株会社の設立方法
持ち株会社を設立して株価の引き下げる方法はいろいろありますが、ざっくりとした手順は、以下のとおりです。
- まず、ご子息が資金を調達し、100%出資して新会社を設立する。
- 新会社が既存の事業会社の株式を現オーナーから買い取る。
- 毎年、100%子会社(既存事業会社)から配当を受ける。
現オーナーが所有する株式を、ご子息が保有する持ち株会社を通した間接所有とします。経営支配権という意味では、ご子息が所有していることと実質的には同じことです。
持ち株会社が増えた理由
今では、相続対策として持ち株会社を活用する企業が増えていますが、そもそも純粋持ち株会社は禁止されていました。ところが、1997年12月に独占禁止法が改正され、グループの傘下に事業に特化した企業を持つことが解禁されました。
これにより、一つの事業としてだけではなく、グループ全体の戦略として打ち出しやすくなりました。例えば、事業部門を切り離したり、似たような事業の子会社同士を統合したり、新規事業への参入がしやすくなったのです。持株会社制にすることで、グループ全体としての最適な意思決定が可能となりました。
持ち株会社は、なんで今まで禁止されていたの?
戦後の財閥の復活を阻止するためでした。第2次世界大戦前の旧財閥は、日本経済を支配していたと言っても過言ではなく、自由競争の面から持ち株会社を禁止していたのでした。
純粋持ち株会社を、なぜ解禁することにしたの?
産業構造の変化が加速する中で、日本の国際競争に立ち遅れるという危機感が強まっていました。純粋持ち株会社待望論が産業界を中心に高まったのです。純粋持ち株会社制度ではリストラをしやすいため、円滑に企業再編を行なう目的もあったかもしれません。
持ち株会社にするメリットとデメリット
持ち株会社は、単なる形式にすぎません。中身が伴わなければ、「仏作って魂入れず」になってしまいます。相続対策だとか、リストラをしやすいだからという理由では、発展がありません。
メリットとデメリットをよくよく吟味したうえで、効率的な体制を構築することが重要です。
持ち株会社のメリット
メリットとしては、傘下の各社への権限の委譲や、柔軟な労働条件の導入がしやすいなどのメリットがあります。また、新規事業の立ち上げや他企業に対する買収がしやすいことも利点です。参考までに、上場会社のプレスリリースによく書かれている項目を列挙します。
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成長力と競争力を向上
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事業会社による経営判断の迅速化
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コーポレート・ガバナンスの向上
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事業特性の発揮
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経営者人材の育成
持ち株会社のデメリット
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傘下企業の横の連携が取りにくい
同じ会社内の別の事業部ということなら連携も取りやすいのですが、別の会社なると妙な対抗意識が生まれ、コミュニケーションが円滑に進まなくなることがあります。統制がうまく取れていれば良いですが、セクショナリズムに陥いる危険性があります。
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事務負担とコストの増加
グループ間の取り引きが増えるので、管理にかかるコストは増加します。また、グループ間取引は、適正な処理が求められるため、管理の面において、複雑になる可能性があります。
持ち株会社を作る際の大切な心構え
迅速な意思決定を可能にするのが、持ち株会社です。持ち株会社化にあたっては、会社の組織・機能やプロセスなど、ゼロベースで見直す必要があります。時には、組織の軋轢もあり、思うように進まないケースもあることでしょう。でも、その経験こそが会社の血肉となり、筋肉質なグループへと育つ糧となるはずです。効率的な企業経営を目指し、前向きな企業再編につなげて欲しいものです。