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「会社は誰のものか?」という議論があります。立場や思想によって、正解はいろいろかもしれませんが、法律的には、誰が何と言おうと株主のものです。会社において、株主は絶大なる権力を持っているのです。
このことをより理解するためには、株式会社の起源を考えると良いかもしれません。
- 会社を設立したい人
- 株式会社に機関変更したい人
- 株主が分散している会社の人
株式会社のルーツは、東インド会社にあり!
会社の利益は、株主へ還元することを目的とされています。この仕組みは、17世紀の初めにオランダ人が「東インド会社」をつくったときに生まれました。
時は、17世紀、大航海時代。ヨーロッパの強国が、船で大海原を航海して植民地にしていった時代です。当時は、アジアの香辛料はとても貴重で、ヨーロッパに持ち帰ってこれれば、莫大な利益を獲得することができました。しかし、船を一隻つくるにも、巨額のマネーが必要でした。また、航海の途中で難破したり、海賊に襲われたりと、ハイリスクハイリターンの状態でした。せっかく大金も、水の泡になる可能性がありました。
そこで、発明されたアイデアが、株式でした。もし船が災難に遭ったとしても、お金を出した人の一人ひとりの損失をできるだけ小さくできるよう、少数の人が出資するのではなく、大勢で出し合おうという発想が生まれたのです。出資の見返りとして、会社が出資者に配当をする、というのが会社の根本的な仕組みです。
株主は、カネも出すけど口も出す!
会社において一番の権力者が、株主だということは、わかっていただけたと思います。その証拠に、会社の役員は株主総会で選びますし、解任もできます。カネも出すけど口も出す、というのが株主なのです。
また、口出しする権利も、持っている株式の数で決まってくるのです。なので、会社経営に口を出してほしくない人には、出資ではなく、借入金として事業資金を出してもらうほうが安全です。
中小企業の場合だと、株主=経営者となっているので、この関係についてあまり深く考えていない人がホントに多いです。株主が誰かということは、大きな決断をするときにとても重要になってきます。だからこそ、会社を作るときには、慎重に発起人を選ぶ必要があります。もし、あなたの意にそぐわない人を株主に入れると、後々もっと苦労が増えることになりますよ。
株主によって会社のカラーが変わる
株主選びは、会社のカラーを決定づける大きな要因となります。例えば、あなたが資本金900万円の会社を設立するとしましょう。
この場合、
① あなたが900万円全額を出資する
② あなたと従業員2名の計3名で300万円ずつ出資する
どちらを選択するかで、会社のカラーは大きく異なってきます。
①の場合、会社に対する決定権はあなたにしかありません。強力なリーダーシップを発揮して、自分のやりたいことやりたいようにできます。一方で、独りよがりの方針が続くと、従業員との連携がうまくいかず、業績が伸ばすことができないかもしれません。まさにワンマン経営です。
②の場合、誰も株式数が過半数を超えていませんので、何もかも多数決で決めていくことになります。チームワーク重視の経営スタイルです。一方で、上手くいっているときは良いですが、関係がこじれてしまうと、収集がつかなくなる可能性があります。
会社の経営スタイルに、正解はありません。どのような経営スタイルを目指すのかによって答えは違ったものになりますが、方向性だけは見据えておいた方が良さそうです。
事業承継は、まず株主のチェックから始めよう!
事業承継を進めるにあたって、会社は誰のものかということをまず把握しなければいけません。確認するのは、株主名簿です。
「事業承継は、株主名簿に始まり、株主名簿に終わる。」
こんな言葉があります。事業承継は、株主を把握しなくては始まりません。
株主ってどうやって把握するの?
中小企業の場合、身内が株主を兼ねているケースが多く、株式名簿を作成する必要性を感じていない方も多くいます。そのせいか、株主名簿を作成していない会社が結構あります。株主名簿を整備していなかったら、100万円以下の過料が課せられる可能性もあります。面倒だからと言って放置せず、自身の身を守るためにも、しっかりと管理して頂きたいものです。
しかし、株主の変更はいつ起こるか分かりません。いつ見ても、株主は誰で、それぞれがどのくらいの株を所持しているかという最新情報を確認するためにも、株主名簿は必要不可欠の書類です。
仮に作成していない場合は、法人税の申告書 別表二を確認してみましょう。別表二は、同族会社か判別するために作成しますが、株主名簿の代用となります。(あくまで、代用です。)
別表二には、次のような情報が記載されています。
・株主の氏名または会社名
・株主の住所
・株主の順位(株式数、議決権数別)
・他の株主との続柄
・株主別の株式数、議決権数
記載内容を見ていくと、株主名簿に酷似していることがわかると思います。
もし、種類株式を発行している場合は、法務局で会社の登記簿謄本を入手して、どのような種類株式の内容か確認することをお勧めします。
別表2をチェックするときのポイント
別表2は、決算書ではわからない会社の所有者や権力関係を如実に物語っています。事業承継を行うにあたって、引き継ぐ相手の立場としては、どのような観点で別表二を見ているのか、知っておいても損はありません。
・前期と比較して、株主が異動していないかどうか?
・異動しているとしたら、誰から誰に異動しているか?
・親族の株主の構成はどのようになっているか?
・次世代に株式が異動されているか?
・事業承継対策として株式の異動はあり得るか?
・株式の所有割合から判断して、誰が会社のキーパーソンか?
・株主の中に問題のありそうな個人や法人がいないか?
・種類株式を発行している場合、だれが議決権の多くを持っているのか?
普段何気なく目にしている法人税の申告書ですが、見る立場、視点が変わると、その重要性がわかると思います。事業承継は、会社の意思決定が大きく変わる節目の時です。引き継ぐ相手の立場で物事を考えてみると、自社の問題点が浮き彫りになるかもしれません。
名義株には要注意!!
平成2年の商法改正以前に設立された株式会社は、特に注意が必要です。旧商法では、株式会社を設立するときに、発起人の最低人数が7名とされていたため、親族、従業員、知人など他人の名義を借りるというケースがよくありました。争いが起こる前に、名義変更をすることをお勧めします。
株式を何が何でも集約しろ!
一度、分散してしまった株式を集めるのは容易ではありません。しかも、問題が起こってからの集約は、困難を極めます。潜在的な問題に気がついたら、すぐに集約するための対策に着手する必要があります。
会社設立直時の会社の価値は、ほとんどゼロです。だから、株式比率が大きな問題になることはありません。でも、一旦株式の価値が評価されてしまうと、それはゼロではなくなってしまいます。株価が付けば、持っている株式に対して欲が出てきても仕方ありません。
株式の買取り
相手から直接株式を買い取るという最もシンプルな方法です。買い取るためには、ある程度の資金と相手の同意が必要になります。業績が好調で株価が高くなっている場合、交渉がハードになることが予想されます。
自己株式の取得
あなたではなく、会社が相手から自社株を買い取る方法で、自己株式の取得といいます。自己株式を取得するためには、会社に内部留保(分配可能額)が十分にある必要があります。また、売主の株主の課税関係(みなし配当といって総合課税)には注意が必要です。
第三者割当増資
特定の者に新株を発行することにより、持株比率を高める方法です。ただし、次のような要件をクリアする必要があります。
- 増資により定款に定める発行可能株式総数を超えない。
- 著しく安い株価で増資を行わない(有利発行)
- 株主総会の特別決議が必要である。
相続人等からの売渡請求
株主が死亡した時に、株式を相続人等から会社が買い取れる制度です。これを行うには、定款に規定する必要があります(株主総会の特別決議が必要)。ただ、買い取りの決定権は、その時の取締役会だったりするため、取締役を支配している必要があります。
種類株式の発行
平成18年の会社法より、種類株式を発行できるようになりました。取締役の選任に対して拒否権を持つ黄金株や、少数株主の議決権を奪える全部取得条項付種類株式を活用する方法があります。(詳細は省きますが、実行にはいくつかの条件があります。)
従業員持株会
従業員や役員が個人で会社の株式を持っているような場合、従業員持株会に集約していきます。議決権は持株会がまとめて行うことになるため、持株会の理事長と良好な関係を保てば、経営権に悪影響を及ぼすことはありません。
経営者は、これらの方法を組み合わせながら、株式の集約を図り、経営支配権を確保しなければなりません。株式に関する問題は、交渉やお金がかかってくるものです。また、たとえ解決できたとしても、すごい心理的ストレスがかかります。同じ志を持った友人ともめないためにも、事前の対策が重要になってきます。