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繰越欠損金がある会社をM&Aするとき、「繰越欠損金の利用して税金負担をできるだけ少なくしたい」と考える社長は多いと思います。
ですが、租税回避行為を防止する措置があるので注意が必要です。また、たとえ租税回避を意図していなくても、繰越欠損金等に使用制限がかかるケースがあります。その取り扱いに気をつけて慎重に取り組む必要があります。
まずは、繰越欠損金をおさらいしましょう!
翌年以降に繰り越す赤字のことを、繰越欠損金といいます。繰越欠損金があると、控除として取り扱うことができるので、税金の負担が減らす効果があります。
例えば、今年1,000万円の利益が出たとします。法人税の税率を30%と仮定すれば、300万円の税金が発生します。
* 1,000万円 × 30% = 300万円
しかし、繰越欠損金が800万円あれば、1,000万円の利益が出しても、利益の1,000万円から繰越欠損金の800万円を引けば、税金の対象となる所得が200万円となり、税金は60万円になります。税負担が大きく変わりますね。
* (1,000万円 ‐ 800万円) × 30% = 60万円
法人税では、会社の赤字は、翌年から7年から10年(制度変更により年数が違う)の黒字と通算できるという、長期間で回収できる制度を作ったのです。節税できれば、真水で使えるお金が増えるので、その分事業資金として活用することができます。
赤字会社の買収するメリット
ただ現実には、会社が大きな赤字を出してしまうと、そこから立ち直るのはかなり至難の業です。銀行も大赤字を出した会社に、融資を行うのは、極めて稀なことです。
そこで、取引先や金融機関、知り合いの社長に相談して、スポンサーを募ったり、その傘下に入ったり、第三者に身売りすることを検討するのです。相談された方は、義理人情の世界もありますが、マイナスを肩代わりするだけでは、何も面白くありません。当然に、相乗効果を狙って様々な角度から算段を始めます。
その算段の一つが、繰越欠損金の活用です。今後の資金繰りのことを考えると、繰り繰越欠損金があることが、買収のメリットの1つになるのです。つまり、売上が上がって利益が出ても、当分は、税金を支払わなくても良いことは、大きなメリットになるのです。
買収による子会社化の注意点
昔から節税を目的に、赤字会社を売買する人たちがいました。そこで、税制改正によって、会社の50%超の株式を売買したあとに、以下の事項に1つでも該当すると、繰越欠損金は消滅することになりました。具体的には、買収(特定支配関係が生じた日)から5年以内に事業内容に著しい変化を生じる一定の事由(適用事由)に該当しないことが条件となります。
- 休眠会社が支配日以降に事業を開始する場合
- 支配日前の事業を支配日以降に廃止し、支配日前の事業規模よりも多額(約5倍超)の借入、出資受入、資産の受入等を行う場合。
- 特定の株主等が欠損等法人に対する特定の債権を取得している場合
- 買収会社が適格合併等により解散する場合
- 役員の全てが退任し、使用人の約20%が退職する場合(非従業事業の事業規模>旧事業の事業規模の5倍)
難しそうなことがツラツラと書いてありますね。簡単に言うと、「株式で売買した赤字会社の事業を止めて、そこで新たに始めた事業の利益と繰越欠損金を通算させない」というのが、この規定の趣旨です。だから、事業の相乗効果を狙って、赤字会社を再生させるつもりであれば、基本的には、繰越欠損金は使えるということです。
例えば、「社員の20%以上が退職した場合」などは、事前の判断が難しくなります。繰越欠損金を見込んで、事業計画を建てていたのに、繰越欠損金が消えてしまい、再生するのに予想外の苦労をしたというケースもあります。
【グループ化前の繰越欠損金の引き継ぎ要件】
細かな引継ぎ要件は、以下のとおりです。
要件 | グループ内再編 | 共同 事業再編 |
||
税制適格に該当する | ○ | ○ | ○ | ○ |
特定資本関係(50%超保有)後5年を経過している (設立時から継続して特定資本関係がある場合を除く) |
○ | – | – | – |
事業に関連性がある | – | ○ | – | – |
関連事業の売上・従業員数が概ね5倍を超えない | – | △ | – | – |
再編当時法人双方の役員が再編後も事業運営に参画する | – | △ | – | – |
グループ化時から再編前まで共同事業が継続して営まれ、かつ、グループ化時と再編前で事業規模の割合が概ね2倍を超えない | – | △ | – | – |
繰越欠損金がある会社のグループ化時の含み益が繰越欠損金を上回る | – | – | ○ | – |
繰越欠損金の引継ぎやその利用は、税務上のメリットもありますが、規定が複雑で解りづらいという点もあります。繰越欠損金が引き継げないという場合には、そもそも、株式譲渡ではなく、事業譲渡という手法を検討するのも一考です。
また、買収により子会社化した後に、グループ内組織再編(合併、分割等)により再編を行うケースには、買収後の運営も踏まえた検討が必要となります。組織再編を行う場合には、あらかじめ専門家と慎重に検討し、計画的に行いましょう。
「税金をとにかく減らしたい」という気持ちはよくわかります。中には、手段と目的が混同している社長も少なくありません。「お客様に喜んでもらう」「働きがいのある会社にする」「経営者、従業員、その家族が幸せになる」という気持ちが大切です。会社の将来を見据え、相乗効果を発揮するよう努めていけば、おかしなことなることはないと思います。