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ルイ・ヴィトン、ロエベ、セリーヌ、ケンゾー、エミリオ・プッチ、クリスチャン・ディオール、フェンディ、ジバンシー、ダナ・キャラン、タグ・ホイヤー、ブルガリ、ドン・ペリニヨン、モエ・エ・シャンドンヘネシー・・・。
これらのブランド、全て同じ会社が経営していること、ご存知でしたか。知らなかったあなたは、もしかしたら上手いこと踊らされているかもしれません(笑)。
さて今回は、これらのブランド帝国を築いた稀代の経営者 ベルナール・アルノーのブランド戦略について、お伝えしたいと思います。
日本人は、ブランドが大好きです。さしてブランドにこだわりがない筆者でも、安心感を求めついつい購入してしまうことがあります。不思議なものですよね。さて、ブランドと聞くと、ニューヨークの五番街に店を構える高級ファッションブランドだったり、セレブが乗るような一流自動車メーカーを思い浮かべると思います。確かに、特定の商標や銘柄はブランドと言えばそうなのですが、なんとなくしっくりときませんよね。では一体、そもそもブランドとは何なのでしょうか。
ブランドの語源は、自分の家畜と他人の家畜を間違えないよう、焼き印(Burned)を押したことに由来します。それが発展して、商標や銘柄などを「brand(ブランド)」と言うようになりました。
語源からもわかるように、ブランドとは、他社と自社との商品・サービスを識別させるものことです。実際に、商品がブランドとして認識されるものとして、以下の要素があると言われています。
- 名称
- 商標
- 標語
- メッセージ
- デザイン
- シンボル
- イメージ
たくさんありますね。これらの要素が、他の商品ときちんと区別されていなければ、ブランドとしての価値はありません。差別化=ブランディングです。実際に、新ブランドを作って、新商品に名前を付けたとしても、すぐにブランドとして機能するわけではないですよね。それが出来たら、苦労はしません。ブランディングは、顧客との関係性が大前提になります。ここが、ブランド・マネジメントの難しいところです。
ブランドの王様と言えば、ルイ・ヴィトンです。ルイ・ヴィトンは、製品としての絶対的な品質を重要視しています。そのこだわりは、半端ありません。
花柄とLVという模様が配置されたおなじみのルイ・ヴィトンで最も有名なデザイン、モノグラム。実は、二代目社長のジョルジュ・ヴィトンがニセモノ対策として生み出しました。日本の市松模様を参考にしたそうです。LとVの柄が製品の正面か中央にくるようにしています。ブランドの顔とも言える絵柄を大切に取り扱っています。どうしても製品の構造上難しい場合は、左右対称になっいます。これは、モノグラムであればすべての製品に適用されているルールです。このように細かなこだわりをもったブランドは、ルイ・ヴィトンが先駆けでした。
アウトレット品は、卸業者などに納品させることで発生します。契約工場が、不良品が出ることを見越して、多めに作るからです。ルイ・ヴィトンは、自社生産、直営販売のみで、生産を委託することがありません。つまり、人任せには絶対にしません。これは、職人による高い品質の製品をお客さまに届けるとともに、粗悪なアウトレット品が出まわることでブランドイメージが低下することを抑える効果があるのです。
質屋やブランド買取専門店などのリサイクルショップに査定に出しても、ホンモノかニセモノか明言することはまずありません。回答は、「○○円で買い取ります」か、「当店ではお取り扱いできないお品になります」のいずれかのはずです。これは、ルイ・ヴィトンが「真偽を明確にするな」という通達をしたからです。その後、リサイクル業界の暗黙のルールとなりました。リサイクルショップからホンモノのお墨付きを与える能力を奪い、消費者に「ニセモノを持つことは恥ずかしい」という文化を醸成していったのです。
ルイ・ヴィトンは、品質に対する徹底したこだわりを持っており、安易な拡大路線には走らず、職人の技術の向上と納得のいく製品を市場に届けることに、注力しています。そのこだわりが強ければ強いほど、消費者は安心感を持ってその価値を享受でき、ブランドという夢物語が成り立っているのです。
このような壮大なストーリーを世界レベルで作り上げているのが、ブランド帝国 LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)のCEO ベルナール・アルノーさんです。
LVMHグループは、60以上のブランドを傘下に収めるグループです。
LVMHが支配下に置くのは、大きく5つの事業で、全体の売上は、356億6400万ユーロ(約4兆6363億円)あります。この巨大ブランド帝国にベルナール・アルノーさんが君臨しています。
アルノーさんは、28歳の時に父から建設会社の社長の座を譲り受けました。転機となったがの、1984年、34歳の時でした。突然、老舗ブランド クリスチャン・ディオールを所有する繊維会社ブサックを買収したのです。
「アルノーとは何者だ?」
「なぜ不動産会社がファッションに?」
パリのファッション界に突如現れた無名実業家に、フランス経済界は騒然となりました。
アルノーさんがブランドに興味を持ったきっかけになったのが、ニューヨークでタクシーに乗ったときの出来事です。興味本位でタクシーの運転手にフランスについて何か知っているか尋ねてみると、
「フランスだって?大統領の名前さえ知らないよ。ただ、クリスチャン・ディオールという名前だけは、聞いたことがあるな・・・。」
と言われたました。アルノーさんは、直感的に「ブランドはいけるっ!」と底知れぬ可能性を感じたそうです。
アルノーさんが経営していた建設会社は、法人ではなくセレブを相手に商売をしていました。不動産とブランド、どちらもセレブが対象となります。セレブの購買動機は、機能だけではありません。手に入れた後に自分が世の中からどう見られるのか。社会的な地位や社交、自己満足なども関係してきます。アルノーさんは、セレブの嗜好を熟知していたのです。だから、不動産ビジネスからブランドビジネスに移行するのは、何も不思議なことではありませんでした。
クリスチャン・ディオールを買収した後も、M&Aは止まりません。ルイ・ヴィトン、ロエベ、セリーヌ、ジバンシィ、ケンゾー、ゲラン、フェンディ……。次から次へと大型買収を繰り返し、あれよあれよと巨大ブランド帝国を築き上げていったのです。
その手法は、いたってシンプルです。
多くのブランド抱えるメリットは、時間をかけて再生できる点にあります。あるブランドが赤字でも、他のブランドで稼げば良いからです。そうすれば、グループ内にノウハウを蓄積でき、人材も育ちます。買収したブランドに才能豊かな若手デザイナーを投入し、伝統あるブランドに新たな血を注ぎ込みます。雰囲気を一変した新作は、世界中の女性たちを熱狂させ、売上を飛躍的に伸ばしました。グループの規模が大きくすればするほど、その効果を発揮できるのです。とは言え、言うは易く行うは難し。そうそう簡単なものではありません。コツは、その統治手法にあります。
LVMHグループで特筆すべきなのは、買収した全てのブランドが統合していない点にあります。通常、M&Aでは、同一の顧客層をターゲットとしている場合、統合して経営効率を高めるために動くものです。効率向上という企業側の論理が最初にあり、顧客側のメリットはその次になりがちです。
しかし、LVMHグループは違います。徹底的に顧客目線なのです。さすが、アルノーさん、「長く愛されるからこそ、ブランドになる」ということ熟知しています。お客さまが、個々のブランドの歴史とアイデンティティに惚れ込んでおり、それを無視して組織を再編すると、長年築き上げて来たブランドの信頼は崩壊してしまいます。アルノーさんは、ここら辺のさじ加減が絶妙なのです。
「マーケティングを気にするデザイナーは、いかに才能があっても、ブランドに寄与する作品は作れません。ブランドに革新性をもたらすには、本物のクリエーターが必要なのです」
(「ブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語る」より)
アルノーさんは、各ブランドのオーナー家への配慮も忘れません。巨大グループの傘下に入って窮屈なおもいをしているかと思いきや、さにあらず。最終的には、みなさん口をそろえて「ハッピーな買収だった」と言うそうです。というのも、大きな方針以外は何も変わらす、発信力がアップするからです。アルノーさんは、買収成功の秘訣を、「独立を維持したファミリー企業の集合体」と言っています。そもそも、60ものブランドを一人で統治することはできません。ある程度は任せるしかありません。ブランドの価値を守るには、中央集権ではなく完全分権が必要なのです。
一時的な経営のまずさから苦境に陥っているブランドを安値で買収してきたアルノーさん。その経営手法は、賛否を含めいろいろと意見がありますが、そのやり方は”究極の芸術”とも言われています。でも、さすがのアルノーさんも、いつまでも情熱や冷静さを保ち続けることはできません。そろそろ後継者を育成していく時期でもあります。
2位のリシュモン(カルティエ、モンブランなどのブランドを持つ)、3位のケリング(グッチ、イブサンローラン、プーマなどのブランドを持つ)も対等しています。各ブランドのデザイナー交代を見事に演出してきたアルノーさん。自身の引退をどのように演出するか、これからも目が離せません。
2014年にエルメスの買収を今後は行わないと正式発表したアルノーさん。エルメスやグッチの買収は失敗に終わりましたが、独立系のブランドはまだまだあります。プラダ、バーバリー、ティファニー、シャネル・・・。”カシミアを着た狼”は、虎視眈々と買収チャンスを狙っていると筆者は考えています。買収を断念したエルメスだって、まだ諦めていないことでしょう。これからもアルノーさんの動向から、目が離せません。
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